夫婦ゲンカを見せることの代償 〜 面前DVという見えない傷とは?

「見ているだけでも、脳は傷ついている」
「見ているだけでも、脳は傷ついている」
子育て
「子どもには、手を出していないから」 夫婦ゲンカをしたあと、そう自分に言い聞かせたことがある親御さんは、きっと少なくないはずです。 私も、若い頃に何度もそう思いました。 叩いていない。 子どもに怒鳴っていない。 喧嘩しているのは、あくまで夫婦の間だけ。 だから子どもには関係ない。 そう信じたかったのです。 でも、友田明美先生の『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』を読んで、私はその思い込みを手放すことになりました。
「見ているだけでも、脳は傷ついている」
「見ているだけでも、脳は傷ついている」

「見ているだけ」でも、傷つくという事実

友田先生の研究で明らかになったことのひとつに、面前DVというテーマがあります。 面前DVとは、 子どもの目の前で、親同士が暴力的なやりとりをすること を指します。 ここで言う「暴力」は、手を上げることだけではありません。
  • 怒鳴り合い
  • 物に当たる
  • 冷たい無視
  • ひどい言葉の応酬
─ これらすべてが含まれます。 そして、驚くべきことに、こうした場面を繰り返し見てきた子どもの脳では、 「視覚野」と呼ばれる、見たものを処理する脳の部位に変化が見られる ことが報告されています。 つまり、子どもは 「見ているだけ」でも、脳のレベルで傷ついている のです。

子どもは、空気を読むプロフェッショナル

夫婦ゲンカの現場で、子どもがどうしているか。 みなさんは覚えているでしょうか。
  • じっと黙り込んでいる
  • 部屋の隅で小さくなっている
  • 何事もなかったかのように、おもちゃで遊んでいる
  • 急に笑顔になって話題を変えようとする
こういった姿を見て、 「うちの子は大丈夫そう」 「気にしていないみたい」 と、私たちは安心してしまいがちです。 でも、それは大きな勘違いです。 子どもは、空気を読むプロフェッショナルです。
  • 親の顔色
  • 声のトーン
  • 家の中の温度感
─ そのすべてを全身で受け取りながら、「この場をどう生き延びるか」 を必死に考えています。 平気そうに見えるその顔の裏で、脳は確かに揺れている のです。

怒鳴り声は、子どもにとって”地震”と同じ

大人にとって夫婦ゲンカは、言葉の応酬です。 でも子どもにとっては違います。 子どもにとって、両親の怒鳴り合いは、 自分の世界の土台が、ぐらぐらと揺れる出来事 なのです。 地震のときに、私たち大人がとっさに体を硬くしてしまうように、 子どもは怒鳴り声を浴びると 体と脳を硬直させて耐えている。 そしてそれが繰り返されれば、
  • 人の表情を過剰に気にする
  • ちょっとした物音にビクッとする
  • 自分の気持ちを言えなくなる
  • 大人の機嫌を取ろうと必死になる
といった形で、子どもの行動にじわじわと表れてきます。 これはその子の性格ではなく、脳が身につけた防衛反応かもしれないのです。

パパにも、読んでほしい話

この記事は、特にお父さんに読んでほしい回です。 というのも、子育ての話になると、どうしても母親に矢印が向きがちだからです。 「ちゃんと見てあげて」 「優しくしてあげて」 「怒らないで」 そう言われる相手は、たいていお母さんです。 でも、面前DVの話は違います。 これは、夫婦ふたりの問題 です。 どちらか一方だけが気をつけても、何も変わりません。 パパが怒鳴れば、子どもは傷つきます。 ママが怒鳴り返せば、やはり子どもは傷つきます。 ふたりが冷たい沈黙を続けていても、子どもはそれを感じ取っています。 だからこそ、お父さんにもこの事実を知っておいてほしいのです。 家庭の空気をつくるのは、夫婦ふたり。 その空気の温度を決めているのは、ふたりの関係性。 そしてその空気は、子どもの脳に届いているのです。

コーチの現場から

子育ての相談を受けていると、最初は「子どもの問題」として話しているのに、話を深く聞いていくと「実は夫婦関係が根っこにある」というケースが非常に多いのです。 体感では、3割以上がこのパターンです。 子どもの不登校、成績の急落、急に暴言を吐くようになった。 背景を探ると、家庭の中で夫婦間の激しい口論が日常化していた、ということがあります。 「子どもは寝ているから大丈夫だと思っていました」 そうおっしゃる方もいます。 でも、子どもは起きています。 起きていなくても、家の空気を感じ取っています。 脳科学が明らかにしているように、「見せること」「聞かせること」自体が子どもの脳に影響を与えるのです。

では、どうすればいいのか

夫婦ゲンカを完全にゼロにするなんて、現実的ではありません。 人間が二人で暮らしていれば、意見がぶつかることは必ずあります。 それ自体は、自然なことです。 大切なのは、ぶつかり方後の戻し方 です。
  • 感情的になりそうなときは、子どもの前を離れる
  • 怒鳴り合いではなく、言葉で話し合う
  • どうしても収まらないときは、時間をおく
  • 喧嘩のあとは、子どもに「大丈夫だよ」と伝える
  • 仲直りする姿も、子どもに見せる
特に最後の 「仲直りする姿を見せる」 は、とても大事です。 子どもは、ぶつかりを見ただけでは不安になります。 でも、その後にちゃんと仲直りする場面まで見ることができれば、 「人は喧嘩しても、また仲直りできるんだ」 という、生きていく上でとても大切な学びを得ることができるのです。

家庭の空気を、育てていこう

子育ては、子どもを育てることだけではありません。 家庭の空気そのものを育てること でもあります。 そしてその空気を整えるのは、ひとりで頑張ることではなく、 夫婦で一緒にやっていくこと です。 もし今、パートナーとの関係がギクシャクしているなら、 それは子育てにとっても大切な課題だと受け止めてみてください。 ふたりの関係が整えば、家庭の空気が変わる。 家庭の空気が変われば、子どもの脳に届く信号が変わる。 子どもの脳に届く信号が変われば、子どもの未来が変わる。 すべては、つながっているのです。 完璧な夫婦でなくていい。 ときには喧嘩もしていい。 でも、子どもの前では、できるだけ穏やかな自分でいよう ─ そう決めるだけで、家庭の空気は少しずつ変わっていきます。 『幸せな秀才児』が増えることが最大の喜びです。

📚 この連載について

この記事は、小児神経科学者・友田明美先生の研究をもとにした「脳科学で読み解く子育て」連載の一部です。→ 連載の全記事一覧・概要を見る
【子育て食育に関する免責事項】
本記事は、子育てメンタルコーチ・飲食店経営10年の実体験と独自の学習に基づく情報提供を目的としており、医学的・栄養学的な診断や治療の指導に代わるものではありません。お子さんの食事や健康に関する重要な判断は、必ずかかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。