目次
1. 司令塔「前頭前野」が小さくなる理由
まず注目したいのが、脳の最前線に位置する「前頭前野」です。 以前にも触れた通り、ここは感情をコントロールし論理的な判断を下す「脳の司令塔」です。
2. 言葉のアンテナ「聴覚野」が大きくなるミステリー
次に、耳の近くにある「聴覚野」について見ていきましょう。 通常、ストレスで脳は縮むことが多いのですが、親からの「暴言」を受けた子どもの脳では、この聴覚野が逆に**肥大(大きく)**することがあります。 なぜ大きくなるのでしょうか? それは、いつ飛んでくるかわからない恐ろしい暴言を、一言も聞き漏らさないようにと脳が必死にアンテナの感度を上げた結果なのです。 脳が「自分を守るために一生懸命に適応した姿」だと思うと、なんだか愛おしく、そして切ない気持ちになりますね。 しかし、このアンテナの異常な発達は、日常生活では「他人の声色に過剰に反応して怯える」といったコミュニケーションの困難さに繋がってしまいます。 私たちが穏やかな言葉を選ぶことは、わが子のアンテナを「安心モード」に保つために不可欠なのです。3. 記憶のスクリーン「視覚野」が縮むとき
3つ目は、後頭部にある「視覚野」です。 ここは目から入った情報を処理する場所ですが、親同士の激しい喧嘩(面前DV)を目撃し続けると、この部位が萎縮してしまいます。
4. 記憶と感情を司る「海馬」と「扁桃体」
さらに深い部分では、記憶の保管庫である**「海馬」**や、不安のセンサーである**「扁桃体」**も影響を受けます。- 海馬: マルトリートメントの経験は海馬の形を変え、学習能力や感情のコントロールに影を落とします。
- 扁桃体: 恐怖に敏感なこの部位が過剰に反応するようになると、常に「何かが怖い」という不安感につきまとわれることになります。
5. 最大の希望:脳はいつからでも「修復」できる
ここまで脳の変化についてお話ししてきましたが、私が最も強くお伝えしたいのは、 **「脳には元に戻る力がある」**ということです。それが脳の**「可塑性」**です。 親が学び、自身のストレスをケアして関わり方を変えることで、子どもの脳機能は劇的に改善します。 実際に、親が適切なトレーニングを受けた後、子どもの注意機能が向上し、認知機能を司る「小脳」の活動が活性化したというデータがはっきりと出ています。
6. 今日から意識したい、脳を癒やすマインドセット
今回のまとめとして、今日から大切にしてほしい考え方を提案します。① 脳の「仕組み」を味方につける
イライラした時、「あ、今わが子の前頭前野を疲れさせてるかも?」と一瞬立ち止まるだけで、あなたの司令塔が息を吹き返します。知識は、あなたの感情をコントロールするための最強のツールです。② 「安心」という栄養を与える
脳の各部位を元気に育てる最高の栄養は「安心感」です。穏やかな声かけと、優しい眼差し。それだけで、わが子の聴覚野や視覚野は「安心モード」で健やかに発達していきます。③ 自分自身を癒やすことを忘れない
親の脳が癒やされれば、子どもの脳も変わります。以前に紹介した「4セット法」などを使って、まずはあなた自身の前頭前野を労わってあげてくださいね。コーチの現場から
「脳が物理的に変わる」という話をすると、多くの親御さんが驚きます。 実際に、私がメンタルコーチとして現場で経験したことですが、 甲子園出場レベルの高校野球の選手たちを見ていると、幼少期に強い叱責を受け続けた子は、ある共通した特徴を持っていると感じます。 「ミスをした瞬間、頭が真っ白になる」 これは 前頭前野の萎縮 と関係があるのではないか──と、脳科学を学んでから気づきました。 チームの監督コーチから、メンタルコーチへの要求で最も多いのが、 「うちのチームは実力があるのに、ミスが続くとそれを止めることができない。これをなんとかして欲しい」 というものです。 これは、まさに厳しい世界で育ってきた子の脳には、なんならの変化が起こっている状態だと私は考えています。 逆に、安心できる家庭環境で育った選手は、ミスをしても切り替えが早い特徴があるのです。 脳の3部位の変化は、学術的な話に聞こえるかもしれません。 でも、私の目の前の現場では、それが「切り替えの速さ」「本番での集中力」という形で、はっきりと表れています。 【今日の学びの共通言語】- 前頭前野の萎縮: 激しい体罰で司令塔が小さくなる。感情のブレーキが弱まる原因に。
- 聴覚野の肥大: 暴言によって、言葉のアンテナが過剰に発達してしまう。
- 視覚野の萎縮: 面前DVから自分を守るため、脳が「見る力」を抑制する。
参考文献・引用元: 友田明美『親の脳を癒せば子どもの脳は変わる』(NHK出版新書)
📚 この連載について
この記事は、小児神経科学者・友田明美先生の研究をもとにした「脳科学で読み解く子育て」連載の一部です。→ 連載の全記事一覧・概要を見る